生翠 seisui - 舟醒 shusei’s diary

書画のあれこれエトセトラ

寒さの中の墨

皆様こんにちは。
新年になってからもう一週間が経ち、今日は七草粥をいただきます。
お節料理や暴飲暴食で疲れた胃を労うと共に、春の野草の力強さにあやかって、その勢を頂く…昔の人の知恵と、自然の恵を体内に取り入れる工夫が織りなす季節のお食事、大切にしたいものですね。

それにしても昨日の大雪は寒い上に、滑ったりと大変でした。
今朝は凍結した道路に足を滑らせたりと、怪我や事故も多発したようです。
皆様のご無事をいのるばかりです。

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さて冬将軍真っ只中ですが、この時期は墨作りも最後の仕上げ、乾燥させる行程に入っています。
墨の産地と言えば奈良と鈴鹿です。
その昔は干し柿のように、墨がずらりと並んでいたことでしょう。
墨の練りが上手くいかないと、中に空気が残ったり等して乾燥させた後にヒビが入ったり、曲がってしまったり、出荷出来ないものになってしまいます。
そうした墨は省かれ私達の手元に届くのです。

製造されてから3年ほどは使いません。
使っても良いのですが、墨色があまり良くなく、伸びもあまり良くありません。
伸びというのは、紙に少量の墨量でも掠れる事なくスラスラと書けます。
5年ほど経ったものから使い始めます。
これも使う方の好みなので、敢えて年数など気にしない方もいらっしゃるでしょうし、十年以上経った「枯墨」から使われる方もいらっしゃるでしょう。
その差は墨色や滲みと基線のコントラスト、伸びだったり艶だったりします。

経年した墨がなぜ好まれるか、というと膠の変化による色の変化からです。
墨は煤と膠と水分で出来ています。更に香料が入っています。
最近は殆どがカーボンブラックですが、膠や水は変わりません。
年月を経ることで膠の成分分解と、水分が更に乾燥し抜けていくと、煤と膠の結合も少しずつ変化が生じ、それが紙に書いた時に様々な表情を作り、古い墨らしさが出てくるのです。
古墨とは単に古いという意味では無く、古墨とは唐墨なら清時代まで、和墨なら江戸時代までに作られた墨を指します。
これ程までに経った墨は、今は中々手に入りませんし、保存状態によってもいくら古墨でも、実は腐ってしまっていたりしている物もあります。

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こちらの墨はお世話になっている方から、贈り物として頂戴したもので、年賀状を書くときに磨ってみました。

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葉書ですので色はあまり分からないかもしれませんが、運筆も軽やかで書いていても疲れず、伸びのある線が出る墨でした。
冬は墨にとってはとても良い季節なのですが、磨る方は少し困る事があります。
乾燥させて作り、更に乾燥させて枯墨にするので、湿気は大嫌いでカビが生えたり、腐る原因にもなります。
ところがお水も温かい、硯もそれなりに温かいですが、冬はすべてが冷たいのです。

膠はいわばゼラチンのような物ですから、温かいと溶けやすい=伸びが良く本来の墨の持ち味を出せますが、冬は逆で工夫が必要になってきます。
かといってあまり室内を温め過ぎるのも、良くないですが寒すぎると膠が固まってしまいます。
硯は石ですからひんやりと冷たいものです。
そこへ寒さが更に加わるので、磨る時も硯の下に熱くならない程度にカイロを敷いたり、温めの(20度前後)の水で磨ります。

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このように寒い中で磨ると、膠が粘ってきてドロドロに感じたりします。
冬場は墨にとっては心地よいのかもしれませんが、磨って書くにはちょっと困った季節です。
季節によっても変化がある墨は、本当に味わい深いですね。

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生翠



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